糖鎖がアンチエイジングのカギになる?
平均寿命が伸び、若さを保ったまま年齢を重ねる人が増えました。
その背景には、やはり技術の進歩があります。情報化にばかり目が行きがちですが、アンチエイジングや美容の分野でも日々研究が進み、新しい発見が生まれています。
いま注目されつつあるのが、糖鎖。これは人の細胞すべてに関わる仕組みで、アンチエイジングにも多大な効果が見込める研究成果が発表されています。
そもそも糖鎖って?
私たちの細胞は、主に糖をエネルギー源にしています。食べ物(糖質)は体に入ると、酵素によって消化分解されて、ブドウ糖(グルコース)になります。小腸で吸収された後、血液に乗って体中の細胞に届けられます。健康診断の代表的な検査項目の1つに血糖値がありますが、この「糖」は、血液中のブドウ糖の濃度を指します。
糖鎖は、ブドウ糖(グルコース)を含む8種類の単糖が鎖のようにつながったもの。すべての細胞の表面に生えていて、アンテナのような役割を持ち、周囲の情報を受け取ったり、逆に自分から情報を発信したりする役割を持ちます。
糖鎖の研究が始まったのは、1960年代のこと。「神経細胞間のコミュニケーションの発見」という研究がノーベル医学賞を受賞したのがきっかけでした。
あまり知られていませんが、以来糖鎖関係の研究でさらに9つものノーベル賞が受賞され、現在でも毎年のように新たな発見がなされています。生命科学の分野では、糖鎖は「タンパク質」「DNA」に続く”第3の生命の鎖”と呼ばれるほど重要視されています。
その主なはたらき
糖鎖がなぜそれほど注目されているかと言えば、細胞同士がコミュニケーションを取る上で欠かせない役割を果たしているからです。
- 具体的には、以下のようなものです。
- – 風邪のウイルスなど、体に悪いものを見つける
- – 仲間の細胞を見分ける
- – 細胞同士で「元気?」「助けが必要?」と情報を伝える
- – 体のホルモンの働きを調整する
- – 体を守る免疫の働きをコントロールする
糖鎖だけが細胞同士のコミュニケーションを担っているわけではありません。ほかにも、化学的なメッセージや直接的な接触を通して情報をやり取りしています。
ただ、糖鎖が果たすアンテナの役割はとても重要です。そこから得た情報が、細胞が動き始めるきっかけとなるからです。体の中で異常が起きていても、それを細胞が察知できなければ対応できません。
美容・健康への応用
糖鎖は、60 兆あるとされる人の細胞のすべての表面を覆っています。細胞にはさまざま種類があり、それぞれに役割も異なります。それらのコミュニケーションツールとなる糖鎖の影響範囲はとても広く、複雑です。
老化や免疫機能、細胞のがん化や認知症などの疾患とも深く結びついており、糖鎖のはたらきを活用する研究が進められています。たとえばインフルエンザ(A型・B型)の特効薬で知られるタミフルは、ウイルスに狙われる糖鎖を模して、細胞の代わりに結合することで感染拡大を防ぎます。
また、美容の分野では、2023年3月に行われた薬学会で国立大学の宇都義弘教授が驚くべき研究成果を発表しました。それは、リポソーム化という処理をした糖鎖が、細胞の老化を解除する可能性を示すものでした。
リポソーム化(=カプセル化)について
リポソーム化とは、簡単に言えばカプセル化です。細胞の膜と同じような作りの膜で糖鎖を包み、消化や免疫機能による分解から守ります。
同じ構造をしているだけに細胞ともくっつきやすく、糖鎖の吸収効率をぐっと高めることができます。
研究者が驚いた実験結果
宇都義弘教授の研究チームは、老化した細胞を用意し、そこにリポソーム化した糖鎖を与えて変化を確かめました。具体的には、老化が始まった細胞にだけ特に多く現れるタンパク質(※1)の量の変化を追いました。
すると驚くべきことに、このタンパク質の量が若い細胞よりも少なくなったそうです。これは、少なくとも細胞レベルでは、リポソーム化糖鎖が非常に高いアンチエイジング作用を持っていることを示しています。
なお、糖鎖を作っている糖を別々に試しても同じ効果は得られず、8 種類揃っていることが重要であると宇都教授は述べています。
※1:このタンパク質は、正確には β-ガラクトシダーゼと言い、老化細胞に特に多く見られるため老化マーカーとも呼ばれています。
細胞はどうやって老化する?
細胞は、成長すると自分の DNA をコピーし、分裂します。そして、分裂した細胞がまた成長し、このサイクルをどんどん回して数を増やしていきます。
ただ、もちろん永遠に分裂することはありません。成長する中でDNAは少なからずダメージ(たとえば紫外線などのストレス)を受けます。治せる範囲であれば治療するのですが、DNAへのダメージが一定のラインを超えると、体はその細胞の分裂を止めるように命令を出します。
これが、細胞の老化の始まりです。分裂が止まった細胞は、自分がもう働けなくなったことを体に伝えるためにさまざまな物質を出します。そして、自滅したり免疫細胞に除去されたりして消えていきます。
糖鎖が老化への誘導を止める可能性
老化に関わる重要なタンパク質に、p21 があります。これは、傷ついた DNA を治す時間を稼ぐために、細胞の分裂を止めるものです。分裂が止まった細胞=老化した細胞では、このp21が増えます。
宇都教授の研究によると、リポソーム化糖鎖を作用させた老化細胞では、p21の量も減っていたそうです。老化マーカーが減少していたことを踏まえると、リポソーム化糖鎖が細胞の老化を解除している可能性が高い、と考えることができます。
細胞が作るエネルギーも増大
細胞の中には、エネルギーを作るための工場があります。それは、ミトコンドリアという器官です。
通常、細胞が老化するとミトコンドリアの数も減っていきます。そのため、細胞が作り出すエネルギー(ATPという分子)も少なくなっていきます。
ただ、リポソーム化糖鎖を与えた老化細胞では、このATPの量が大きく増えていることがわかりました。その理由として挙げられるのが、NAD+という物質の増加です。
NAD+は、細胞の老化を遅らせたり、DNAの修復を促したりする物質です。つまり、ここまでに説明した老化の根幹に関わる物質と言えます。
今後の展望
これらの成果は、糖鎖には美容に留まらない総合的なアンチエイジング作用があることを示しています。
宇都教授は現在生き物を使った実験に取り組んでおり、細胞で得た結果が裏付けられたら、さらに臨床へとステップアップしていく展望を語っています。
糖鎖をアンチエイジングに取り入れるには
宇都教授の研究によって、少なくとも細胞レベルでは、糖鎖の持つアンチエイジング効果が確かめられました。
人の体は細胞でできています。糖鎖を効果的に摂取することで、内側から老化を抑え、ひいては見た目の若返りを目指せる可能性があります。
とはいえ、糖鎖を構成する 8 種類の単糖は、食事からは十分に摂取できません。長い時間を掛けて進む老化に対抗するためにも、手軽に飲めるサプリメントが第一の選択と言えます。
宇都先生インタビュー動画一覧
【会員限定】No.1 老化線維芽細胞に対するリポソーム化糖鎖の有効性試験
【会員限定】No.2 リポソーム化糖鎖の間質性肺炎・抗癌・糖尿病・発達障害・自己免疫疾患への有効性について
【会員限定】No.3 糖鎖栄養素の必要性とリポソーム、非リポソームの有効性評価
【会員限定】No.4 PDSリポソーム化ビタミンCとリポソーム化糖鎖の抗癌作用に係る有効性評価
主な参考資料
[【会員限定】No.1 老化線維芽細胞に対するリポソーム化糖鎖の有効性試験 | 糖鎖情報館](https://tosa-lab.com/movie_member_loposomal001/)
[【会員限定】リポソーム化糖鎖による抗老化作用 | 糖鎖情報館](https://tosa-lab.com/liposome_anti-aging_effect/)
[糖鎖とは – J-Glyco Net](https://j-glyconet.jp/glycobiology/)