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大豆由来のK・リゾレシチンの効果

協力: 東北福祉大学感性福祉研究所
畠山英子・石川宣子

実験の手法
供試料
レシチンはリン脂質の1種であるホスファチジルセリンの別名であるが、ヒトの脳細胞に多く含まれ、神経伝達やシナプス伝達の機能を有し、記憶維持、学習能力および集中力にかかわるものと考えられている。含有食品として卵黄や大豆があげられる。本研究においては、実験の特性から、腸管吸収ならびに血液脳関門の通過の速さを考慮し、大豆レシチンを酵素によってリゾ化し低分子にしたもの(以降K・リゾレシチンと表記)を供試料とした。
※大豆リゾレシチン1.2gを摂取してもらい、摂取60分後のデータを非摂取時(対照)と対比した。使用したK・リゾレシチンは、ヒトを対象にする実験であることから安全性を考え、市販品を用いた。

供試料

ヘルシンキ宣言に則して被験者への対応を行った。
インフォームドコンセントを得、実験協力同意書に署名、捺印した20代の健康な男子大学生を被験者とした。被験者には、計測実験日の2日前からアルコール類の非摂取を依頼した。
実験当日にカフェイン入り飲料の非摂取、計測開始4時間前から絶食、計測2時間前から飲料飲用の禁止を実施してもらった。K・リゾレシチン摂取実験の場合は22~26歳の健康な男子大学生13名を被験者とした。

図1 供試料として用いたリゾレシチンの分子構造

実験の結果

表1 K・リゾレシチン摂取時の各種課題遂行結果
N=13. 平均値±標準誤差

図3 気分状態に及ぼすK・リゾレシチン摂取の影響
N=13. 平均値±標準誤差.ab:p<0.05の有意差あり

 
 

図4 暗算課題遂行過程の左右前頭部
酸素化ヘモグロビン濃度の変化
前値(10秒間)に対する毎秒計測平均値±標準誤差の相対濃度変化
★★p<0.01, ★p<0.05は前値に対する有意差

図5 短期記憶課題遂行過程の左右前頭部
酸素化ヘモグロビン濃度の変化

前値(10秒間)に対する毎秒計測平均値±標準誤差の相対濃度変化
★★p<0.01, ★p<0.05は前値に対する有意差

 
 


図6 文字消去課題遂行過程の左右前頭部
酸素化ヘモグロビン濃度の変化
前値(10秒間)に対する毎秒計測平均値±標準誤差の相対濃度変化
★★p<0.01, ★p<0.05は前値に対する有意差

図7 音・音楽聴取過程の左右前頭部
酸素化ヘモグロビン濃度の変化

前値(10秒間)に対する毎秒計測平均値±標準誤差の相対濃度変化
★★p<0.01, ★p<0.05は前値に対する有意差

 
 

■実験の結果
●K・リゾレシチンを摂取した場合
課題遂行成績は対照に比べ、K・リゾレシチン摂取時に暗算課題の加算回数、短期記憶課題や文字消去課題の回答の正誤において優位であった(表1)。
 K・リゾレシチンの課題遂行後の気分状態への影響について調べた結果、抑うつ感や落ち込み感を抑えることがわかった。若干ながら緊張や不安を和らげ、混乱を抑制する傾向も認められた。(図3)課題遂行を行わない場合についてはこの実験の予備試験で調べているので紹介しておく。20~22歳の男女33名(男子18名、生理周期の影響を受けない女子15名)を被験者にして同条件でK・リゾレシチンを摂取してもらい、摂取60分後のPOMSの結果と摂取前の結果を対比した。「緊張―不安」尺度得点は摂取前15.5から摂取後10.2に減少した。「抑うつ―落ち込み」得点は15.7→9.1、「怒り―敵意」は10.0→4.6、「活気」は10.8→13.7、「疲労」は12.2→6.3、「混乱」は12.3→8.1に変化し、気分状態の改善にプラスの効果が認められた。
 K・リゾレシチンの学習への影響について調べた結果を図4に示した。若干の左右差が認められ、課題遂行によって上昇するoxy-Hb濃度は右前頭部のほうが大きい数値となった。対照実験においては暗算課題遂行によってもたらされる前頭部oxy-Hb濃度の上昇は20秒後にはほぼ安定するが(図4上段)、K・リゾレシチン摂取の場合には課題遂行終了まで漸増した(図4下段)
 K・リゾレシチンの記憶への影響について調べた結果を図5に示した。対照の場合は、短期記憶課題遂行により生じる前頭部oxy-Hb濃度変化には明瞭な左右差が認められ、oxy-Hb濃度は右前頭部のほうが大きい数値となった(図5上段)。一方、K・リゾレシチン摂取の場合は、左右差は小さく(図5下段)、対照と比較し、oxy-Hb濃度の上昇を抑えた状態で課題遂行を可能にすることが明らかになった。K・リゾレシチンの作業遂行への影響について調べた結果、文字消去課題遂行にともなう前頭部oxy-Hb濃度の上昇を抑制しながら作業遂行を可能にする傾向が明らかになった(図6)。音・音楽聴取過程のoxy-Hb動態を図7に示した。短期記憶課題ならびに文字消去課題遂行へのK・リゾレシチンの影響が認められたものの、音・音楽聴取過程のoxy-Hb動態には影響を及ぼさないことがわかった。

■K・リゾレシチンの脳活動への寄与
総じて、K・リゾレシチンは摂取後短時間のうちに、記憶・作業などの課題遂行にともなう前頭部oxy-Hb濃度の上昇を抑え、気分状態を好転させる機能を発現することが示唆される結果が得られた。大豆ペプチドやテアニンと異なり、学習課題遂行時の前頭部の鎮静化はみられなかった。
 K・リゾレシチンの摂取によって、リラックスした状態で記憶課題や仕事をこなしたり、ストレスなどによる気分状態の不良を改善できるものと考えられた。また、音楽聴取時にリラックスした状態で鑑賞することは非摂取時と同様に可能であり、頭脳疲労を緩和することが期待された。K・リゾレシチンをマウスに4週間継続投与し、投与終了4週間後から12週間後までの脳内ホルモン(ノルアドレナリン、セロトニン、ドーパミン)を定量した研究が具ら¹)によって報告されており、12週後まで脳内ホルモンの有意な上昇を確認している。

文献

¹)具 然和、山下剛範、神津健一:K.Lysolecitin投与による脳内ホルモンの分泌量や水迷路学習効果に関する研究、日本薬学会125年会(東京)要旨集2005、演題番号31-0983.